GREGORY,gregory,グレゴリー,ぐれごりー,リュック,バックパック,アウトドア,カジュアル,ライフスタイル,アルパイン,ハイキング,ショルダーバッグ,ウェストパック,トート,アクセサリ,オンライン,通販,ゴルフ,キャンプ,登山,トラベル,ダッフル,ビジネス

山と街の魅力が交錯する
1泊2日のバックパッキング
齊藤美香
山と街の魅力が交錯する
1泊2日のバックパッキング
齊藤美香
南アルプスと北杜を繋ぐ1泊2日の山旅

 

山と街を繋ぐと、それは登山を超えて旅になる。登山者の多くは、下山したらすぐに帰ってしまう。でも、登った山を振り返りながら、余韻を楽しむことをもっとしても良いはずだ。だから、登山だけではなく、麓のお店も組み合わせてみるというのが今回の旅の主旨だ。南アルプスと北杜市を繋ぐ、1泊2日の山旅へ。
静かな樹林帯を抜けて
齊藤美香さんは、とてもバランスの良い歩き方をする。ヨガの先生をしているということで、なるほど、体幹が強いのだ。この旅の主人公である彼女は、北杜市でゲストハウス「ヨガと古民家宿 ëighten」を営んでいる。

「4年前に移住してきて、すっかり北杜の虜です。気候も良いし、新しくて面白いお店もたくさんできてます。それに南アルプス、八ヶ岳と良い山も揃ってますしね」
いま登っているのは、南アルプスへの登山口のひとつである夜叉神峠から少し登った場所。今回のルートは、夜叉神峠登山口から入り、宿泊地である南御室小屋へ。その後、薬師岳まで行き、その時の時間や天候を見てその先に進むか決める。状況に合わせて臨機応変にプランを変えていくのも登山の面白さのひとつだ。コースタイムで言うと、南御室小屋まででも6時間ほどかかる。だが、その分ご褒美も多い。柔らかな日差しの中、木々がまばらになる場所では、涼しい風が抜けていく。

「風の通り道が天然クーラーですね」

風が吹き抜けるポイントを見つけては、美香さんが嬉しそうに立ち止まる。
登り始めは美しい樹林帯を抜けていく。ミズナラ、ハンノキ、ミヤマザクラ、イタヤカエデなど。おもに広葉樹なので、新緑や紅葉の時期もとても美しいはずだ。1時間ほどの森歩きで、夜叉神峠小屋に到着。北岳、間ノ岳、農鳥岳の白鳳三山が大迫力で視界を埋める。その後も急登というほどの場所はなく、比較的のんびりと標高を上げていく。
「夜叉神峠から入るこっちのルートもいいですねえ」

美香さんは、この鳳凰三山に青木鉱泉から入るルートで登ったことがあるという。同じ山でもルートを変えると驚くほど違う体験ができる。

「いまのこの光、素敵ですよね」

突如として現れた霧に覆われた森の美しさに目を奪われる。「いろんな天気があっていい」と美香さんが振り返って笑う。
登りはじめて6時間。今日の宿泊地でもある南御室小屋に着く。煙突からもくもくと煙が立ち上る、クラシカルで雰囲気のある山小屋だ。広々としたテント場もあるし、小屋の脇からは勢いよく綺麗な水が湧き出している。その南アルプス天然水で顔を洗ってリフレッシュする。
巨岩と白砂のピークへ
小屋に不要な荷物を預けたらもうひと登り。薬師岳を目指す。しばらく登ると一気に視界が開ける。砂払岳は白砂と巨岩の世界だ。花崗岩が途方もない年月をかけて、岩の隙間に入り込んだ水の膨張によって砕かれ続けた結果、山にまるで南国のビーチのような白い砂地が形成される。
風景だけでなく、天候も目まぐるしく変わる。ダイナミックに雲が動き、北岳が姿を見せる。夜叉神峠で見た時より、その迫力はひとしお。ガスの向こうに時おり覗くその姿は、まるで壁のようだ。
季節的にまだオープン前だった薬師岳小屋を過ぎ、いよいよ鳳凰三山のひとつである薬師岳山頂へ。砂地の上にハイマツがまばらに生え、巨岩が立ち並ぶとても特徴的なピークだ。この先の観音岳、地蔵岳と縦走することもできるのだけれど、いま、風は強く吹いている。ここで無理をしても仕方がない。また来ればいいだけの話だし、頂上を踏むことだけが登山の楽しみではない。今回は薬師岳からそのまま小屋へ戻ることにする。
誰もいないテント場で、美香さんがヨガをはじめる。1日の締めくくり。山でのリトリートの時間だ。

「みんなで山でヨガをするイベントも開催しています。呼吸を大切にするので、空気が綺麗な山の上は最高のヨガスタジオなんです」

そう言う美香さんの元に、奇跡のような光が差す。
瞑想的な雨の森歩き
深夜に小屋の屋根を叩きだした雨がまだ降り続いている。上のほうを見上げると、木々が激しく揺れている。稜線はかなり荒れていそうだ。天候が良ければ、昨日の薬師岳の続きを歩いて下山することも考えていたのだけれど、山で無理をしても仕方がない。それに今回は下山後の楽しみもあるから、早めに下ってしまうことにする。
雨の森歩きはどこか瞑想的だ。ランダムに耳に届く音、歩くリズム、そして自身の呼吸。それらの組み合わせによって、どんどん気持ちが静かになってくる。

「ノイズが消えていく感じがあります。体と心がリンクしていく。呼吸を大切にするのは登山もヨガも似てますね」

雨の山と聞くと苛酷なものを想像しがちだが、樹林帯を選べば、内省的な森歩きを楽しむことができるのだ。
9:00過ぎに無事下山。まだまだ時間はたっぷりある。早めに下山したのは天候もあるけれど、その後の北杜市巡りも楽しむためなのだ。八ヶ岳や南アルプスの玄関口でもあるこの街が、最近盛り上がっているという。移住者も多く、新しいお店もたくさん生まれている山の麓のホットスポットだ。
山の後は食でもリトリート
美しいハーブガーデンに囲まれた一軒家。店内は、大きな梁が渡された古民家のような造りだが、まだ真新しい木の香りが漂う。美香さんもよく通っている「Koma」というデリカテッセン。カウンターのトレイには、野菜たっぷりの見るからにヘルシーな料理が並んでいる。
「山ってどうしても野菜が不足してしまうから、下山後の昼食はKomaさん一択です。浄化される感じがしますよ」

北杜産のさまざまな野菜を取り入れた個性豊かな5つの野菜料理と、ケバブのセットを注文する。ボリュームたっぷりのケバブには、ソイミートが使われているのだが、これが抜群に美味い。生の丸大豆を使っているのが特徴で、言われなければヴィーガンとは思えない。使われる野菜はすべて旬の有機無農薬野菜で、それぞれに個性的な味わい。正直、ヴィーガンでこんなに味のバリエーションを出せることに驚いた。
店長の小野絢子さんは、北杜市出身。東京に10年、ロンドンに5年滞在したのち、地元に戻ってこの店をオープンした。美香さんいわく、北杜は一度出たとしても戻ってくる人が多いという。それは良い街だというなによりの証拠だ。
北杜の恵みを活かしたブリュワリー
次に訪れたのは「MANGOSTEEN HOKUTO」。まるでアメリカのローカルブリュワリーの雰囲気だが、奥にある醸造設備は相当に本格的。つねに新しいビールを模索しているという。あっと驚くフレーバーも多いが、けっして奇をてらったものではなく、ビールとしての完成度が高い。ハーブやフルーツを中心とした北杜の恵みを、上手にビールに落とし込んでいる。醸造を担当している栗原稔さんは、ここで作っているビールを「地ビール2.0」と表現した。
奥には使用済みのビール原料の麦芽を皮に練り込んだ餃子などを食べられる食事処「万珍包」もある。工場見学も自由だし、タップルームも併設。販売されている雑貨たちもバリエーション豊富だ。ほかにも大物アーティストも出演する音楽イベントをおこなっていたり、隣には巨大アート施設「GASBON METABOLIZM」もある。ここだけで1日楽しめる“なんでもあり”な複合施設だ。山をモチーフにしたパッケージのビールもあるから、山好きのお土産を買うにもピッタリの場所だ。「味の予想がつかない感じも楽しい」と美香さんも、いくつか自分用に購入。
山も街も満喫した充実の2日間。「まだまだ北杜には魅力的な場所、たくさんありますよ」という美香さんの言葉に後ろ髪を引かれる。このまま美香さんのゲストハウスに1泊して、翌日は日向山に登るのも良いし、釜無川あたりでロッドを振るのも悪くない。南アルプスと麓の北杜を組み合わせたとき、それは極上の旅先になる。
山と街を繋ぐバックパック「メイブン38 」
今回の山で背負っていたのは「メイブン38」。小屋泊といっても、このスタイルの山旅だと下山後の着替えなどもバックパックに入れるから、ある程度の重量になる。だからこそバックパックがしっかり追従してくれないと具合が悪い。その点、このバックパックは合金フレームと、しなやかなウエストハーネスの組み合わせで、しっかりと体に寄り添ってくれる。

「背負うと重さがだいぶ減る感覚がありますね。宙にバックパックが浮いてるみたい」と美香さん。

言い得て妙なのだ。背面メッシュと本体との間に空間を持たせることで汗抜けもよく、どんな天候でも快適に背負うことができるのも特徴。背面長の調節も簡単にできるので、さまざまな体型の人にフィットするのも、小柄な美香さんにとって、ありがたいポイントだという。

収納力もかなり高く、日帰りから小屋泊。荷物を絞ったテント泊まで、さまざまなスタイルに対応してくれる「メイブン38」は、山と街を繋ぐバックパックとして最適だ。
「次はこのバックパックを背負って、旦那さんと一緒に北岳に登りたいですね」

北杜の街からは、先ほど登っていた鳳凰三山や、八ヶ岳、金峰山など、さまざまな山々が望める。この北杜市エリア近辺だけでも、旅先は数え切れないほどあるのだ。

齊藤美香(さいとうみか)

古民家を自らリノベーションしたゲストハウス「ヨガと古民家宿 ëighten」を2024年、北杜にオープン。大学時代の世界一周の旅の途中でヨガに出会い、現在はヨガの先生としても活躍。山とヨガを掛け合わせた「山とヨガのリトリート」の企画運営もおこなっている。ほかにもパーマカルチャーを取り入れた畑作りなど、自然とともに生きるライフタイルを多岐にわたって実践している。

Text:Takashi Sakurai
Photo:Hinano Kimoto