Cover all of GREGORY

グレゴリーにまつわるモノ、ヒト、コト。

日本古来のストイックな山岳レースの世界に独自のスタイルと雰囲気でフィールドを駆け巡り、欧米スタイルを取り入れたアウトドアスポーツとして「山を走るスポーツ・競技」をトレイルランニングとして日本に普及させたパイオニア、石川弘樹さん。また、アスリートとしてだけでなく、日本でのトレイルランニング第一人者としてイベントやレースを日本全国でプロデュースするなど、国内でのトレイルランニングの健全な普及に力を注いでいる。そんな彼の20年以上に及ぶトレイルランニングの歴史を語る上で、〈グレゴリー〉は欠かすことのできない存在だった。

「小学校から大学4年までずっとサッカーをしていて、将来は実業団でサッカーを続けるものだと思っていたんですけど、大学3年生の時に大きな怪我をしてしまって。そこで初めてこれまでの人生について振り返ったときに、サッカー以外何もしてこなかったなって。それでもっといろんなことに目を向けてみようと。アルバイトしてみたり、音楽が好きになってクラブに通ってみたり。で、あるとき、クラブでバイトをしはじめて知り合ったお客さん繋がりで“アドベンチャーレース”という競技の存在を知ったんです。これがきっかけで今までやったことのなかったアウトドアスポーツというものが自分の中に入ってきましたね。

アドベンチャーレースとは、チームで戦う複合耐久レースで山、川、海などの自然をフィールドに、多種目なアウトドア種目をこなしながら数百キロ先のゴールを目指す競技。この中にトレイルランニングも含まれます。このとき情報として教えてもらったスポーツがアドベンチャーレースだったんですけど、その競技の過酷さと世界各国の僻地で行われるという話に衝撃を受けて、僕も一生に一度はやってみたいなって思って、真似事をはじめることになります」

「そうしてカヤックやクライミング、マウンテンバイクなど、とにかくいろんなアウトドアスポーツをやったんですけど、一番シンプルで好きになったのがトレイルランニングでした。近くに山があってシューズとウェアさえあればいいんですから。もちろん、当時はすべてがアドベンチャーレースに出るための経験。いつ何時レースに出場するからという目標があるわけでもなく朝から夕方までずっと走ってましたね。でも、それが面白かった。山の気持ちよさというかいくつもの頂を制覇する感覚というか山の美しさの魅力にも引き込まれました。そうこうしているうちに、22歳のときに初めて山岳レースに出たら、いきなり入賞してしまって。ちょうど97年頃の話ですね」

その後、憧れだった日本を代表するアドベンチャーレーシングチーム「EAST WIND」のチームメンバーに加わる。以降、アドベンチャーレースを中心に活動していたが、2002年からは得意なトレイルランニングに絞り、もっと突き詰めるために、北米、欧州を始め、アジア、南米、アフリカなどのレースやフィールドを走り、世界中のトレイルランニングシーンに日本人・石川弘樹の名を残してきた。コースは長いもので100マイル(160km)を超えるものもある。そんな過酷を極めるレースへ石川さんを突き動かすものとは。

「トレイルランニングは走る旅、走る遊びだと思うんです。例えば、綺麗な景色や動植物に出会うこともそう。街中では、建物や路肩があったりしますが、基本的には何も考えずに走れますよね。でも、これが山道となると、2つとして同じ足の踏み場がありません。整備された林道もあるにはありますが、石が転がっていたり、木の根が張っていたり、そこに起伏があったりもする。道も平坦ではなく大きなこぶや窪み、起伏、岩があったりと、常にその変化を感じながら走っていくんです。言い換えるなら大人の障害物競走ですね。いろいろな障害物をよけたり、かわしたりしながら、その間も常に足や体を動かし続けないといけないので、あっという間に時間や距離が進んでしまう。

僕は山道の下りが大好きなのですが、自分のイメージ通りに下りきった時の爽快感はたまりません。スキーやマウンテンバイクで斜面を下りた時と同じ感覚というか。でも、スキーやマウンテンバイクは道具を使うのに対して、トレイルランニングは自分の足だけが頼り、まさに自分の足で走り下るゲーム感覚。そこがまた、たまらなく楽しい部分だと思っています。その他にも人や己と戦うレースにはレースの深い熱い魅力がありますけどね……」

 

ザックの理想型「ルーファス」。

〈グレゴリー〉が唯一作っているトレイルランニングパック「ルーファス」。遡ること13年前。2008年に発売され、瞬く間に国内のトレイルランニング界を席巻したザックだ。2022年に新色のリリースが控えているという「ルーファス」を、長年ディレクションしてきたのが、何を隠そう石川さんだ。

「グレゴリーとの出会いは、アドベンチャーレースを中心に活動していた頃。当時、REI(アメリカのアウトドアブランド兼ストア)でアルバイトしていて、そこでフットウェアを担当していた上司がグレゴリージャパンで働きはじめたことをきっかけに、声をかけられ正式にサポートを受けることが決まりました。それから2002年、アメリカへ遠征に行くことになり、その上司から“グレゴリーの本社に行っていろいろフィードバックしてきてほしい”って言われて。遠征が終わったあと、本社のあるサンディエゴの空港に着いたらまさかのリムジンが迎えに来ていて、そのままホテルに直行。ものすごい高待遇にテンション上がりました。

でも、チェックインしたときにホテルからお金を払え! って言われて。その頃は十分な遠征費がなくていつも安いモーテルに泊まってた自分からすると、そんな何百ドルも払えるわけもなく。結局ホテルには泊まらず、本社までタクシーで行って横の空き地にテント張って野営したんです。そしたら夜中に当時の副社長のディオンがポルシェでやってきて、“ごめん弘樹、ちゃんと手続きできてなかった!”って言われて、またホテルに戻るっていう。部屋にはホテルからの謝罪のメッセージとフルーツの盛り合わせが置いてありました(笑)」

そして、その翌日から、持参した遠征装備の入ったラゲッジとは別に、大きなダッフルバッグに当時市販されていた他社のハイドレーションパックを片っぱしから集めて来て、フィードバックし、デザイナーたちとの新しい〈グレゴリー〉のバッグ作りのミーティングがスタート。そうして翌年にあたる2003年、「ルーファス」の原型になるモデルがリリースされる。

「サンプルができてはフィールドテストの繰り返しでした。ルーファスができるまでに、10回以上は前身となるモデルチェンジしたと思います。僕もとことんやるタイプなので、自分で修正したいところをザックに縫い付けて持って行ったりしてましたね。実際は2008年に初代ルーファスができてから、2013年にテンポという後継機にあたるモデルがリリースされて一時休止。それから3年後の2016年にまた復活します。ちなみにルーファスという名前はハチドリの一種。冬はメキシコに生息しているんですが、夏になるとアメリカのコロラドまで、約3,000㎞の道のりを飛んでくる鳥です。アメリカにいた時にその存在を知って、遠くまで飛ぶ行為がまさにウルトラランナーだと思って、シグネチャーモデルの名前にしました」

2016年の復活からフォルムデザインが大きく変わった「ルーファス」。グレゴリーの特徴でもある背負い心地を損なうことなく、さらに利便性、快適性を高めた。

「ルーファスは私のシグネチャーモデルですから、妥協はできません。2つのバックパックを見ながらデザインを考えました。テンポは荷物を詰めたときに重心がやや下側になる。よりブレないようにするためには、もっと重心を上にしたほうがいいという判断に。じゃあどんなカタチにしようかと考えていて、テンポを両手で持ってクルッと上下を反転させた瞬間、デザイナーとこれだ!って。あとは、締める緩めるをワンアクションでできるコンプレッションシステム、ボトルやアウターを入れられる背面ポケット、大小組み合わせたフロントポケット、行動食やヘッドランプを収納できる両サイドのポケットなど、走りを妨げない要素を、何度もテストしながら加えていきました」

(左上から)シェル、スマホ、カットソー、ミドルレイヤーダウン、レインジャケット&パンツ、ウォーターボトル、エナジーバー、ファーストエイドキット、浄水器、ライト、鈴

 

時代や環境ととも、体のサイズや着るもの、食べるものが変化するのは当たり前。それはザックも同じこと。幾度となくフィールドテストを繰り返し、自分が一番使いやすいと感じるようアップデートすることで、新境地を切り開いてきた。

「初代のルーファスから言っていることなんですが、これはトレイルランニングパックの原点と呼べるものです。走りながら水を飲めて、モノが取り出せて、そして収納できて、さらに食料補給もできる。そういう機能をとことん追求し、完成度を高めた最新ギア。使う人を選ばないので、ぜひ多くのトレイルランナーに使ってほしいですし、快適さを体感してほしい。来年新色が出るので楽しみにしていてください。怪我でレースに出れなくなって約4年。来年こそは復活して、ゆっくりでもいいからレースで走りたいですね。他の選手とは違う雰囲気が出せると思っていますし、僕にしかできないトレイルランニングの魅力を伝えていけたらと思っています」

石川さんのライフワークにまつわる話「仕事編」はこちらから!

バッグ:GREGORY「Rufous」(本人私物)

Photo_Masaru Furuya
Text_Jun Nakada

 

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