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まるでリトル・カリフォルニア!高度感ある稜線を走れる播磨アルプスへ
上宮逸子 里山の魅力

 

2019.03.20

JR神戸線、曽根駅の改札を出ると、良く晴れた真っ青な空と上宮逸子さんの笑顔が迎えてくれた。あたりを見渡すけど、特に目立った山は見当たらない。ここからスタートなんですよね? と上宮さんに聞くと「そうです!」と今にも走り出しそうな勢いだ。
グレゴリークルーである上宮逸子さんは、日本屈指のトレイルランナーだ。これまで様々な大会で優勝し、UTMBと並行して行われるTDSなど、海外のレースにも参加経験を持つ。そして今年もTDSに出場する予定だという。

「でもね、最近、ルートを自分なりに探すっていうのがけっこう気に入ってるんですよ。地図を見て、ここからこうやって繋いで、ここのお風呂に入って帰ったら気持ち良いのでは? という予測のもとに現地に行って、思った通りにコンプリートできると、やりきった感があって楽しいですね。レースとは違った達成感があります」

今回連れて行ってくれるルートも、そうやって見つけた場所なのだという。

駅から軽くロードを走ると「ここです!」と言って立ち止まる。民家のすぐ脇に「高御位山登山口」と書かれた手作りの看板がある。
登山口からちょっと入るといきなりの急登だった。おいおい、いきなりこの登り?と思っていたら、かなり先を行く上宮さんが振り返って言う。「いやーすごくキツイですよね!」でもその表情はどう見ても全笑顔だ。彼女の本業は銀行員。週5日は、その笑顔とともに窓口に立っている。

「海外のレースに出るときは、有給を上手に使っています。うちの銀行は前期と後期にちょっと長めの休暇を取れるので、それをなんとかレースに合わせてって感じですね。もちろん、上司や同僚の理解があるというのも大きいです」

最近では、練習量もさほど多くはしていないという。

そういうタイミングで見つけた楽しみ方が、ルート探索トレイルランであり、今回の山域だ。
最初のきつい登りを終えて少し行くと、一気に視界が開けた。
「どうです? いいでしょ?」と上宮さんがいたずらっぽく笑う。

播磨アルプスと呼ばれるその場所は花崗岩質ということもあって、標高300mに満たないのに樹林帯にならない。稜線から上だけ切り取ったら、3,000m級と言われても納得してしまう意外すぎる景色。さらには、どこまでも走って行けそうな尾根道が見渡せる。まるでカリフォルニアの山のようだね、と海外でのラン経験の多いディレクターが言う。ドライな空気感と、岩稜帯に低木や草木がまばらに生えているその様子は、たしかにそんな感じだ。ただし、眼下には普通の住宅街があるし、採石場なんかもある。ん? でもあの採石場って良く見るとちっちゃいエル・キャピタンみたいじゃないか?
「山の魅力って高さや、長さだけじゃないって最近よく思います。低山や里山にも、魅力はたくさんあります。途中で桜を楽しんだり、黄金色の田んぼを山から見下ろしたり、季節や暮らしを感じながら走れますし。このエリアも15キロくらい走れば、銭湯のある駅に着きますからね。良いルートでしょう?」

たしかに、適度にアップダウンがあって走っていて飽きないし、地元のおじいちゃんなんかものんびりと登っていて、コミュニケーションも楽しめる。良い意味での低山らしいほっこりとした雰囲気があるのだ。

上宮さんは、出場するレースにしても、そのロケーションをとても重視するという。ポイントなどよりも、そのコースを走ってみたい、その土地に行ってみたというほうが重要。

「この前はアリゾナのブラックキャニオンという100kmのレースに出ました。順位、ですか? えーっと何位だったっけ……、あ、29位です! 自分のインスタで確認できました。レースの雰囲気もロケーションも最高でしたよ!」

このブラックキャニオンというレース。実は「ウエスタンステーツ100」への出場権がとれるゴールデンチケットレース。ガチな選手も大勢いるはずなんだけど、彼女はあくまでもFUNを最優先する。そもそもトレイルランを始めたきっかけからして、平和的というか、上宮さんらしい理由なのだ。

「それまでずーっとバドミントンをやってきて、ちょっと人と競うことに疲れちゃったんです。トレイルランにも競争相手はもちろんいるんですが、対戦スポーツとは違って、あくまでも自分との戦いという面もあります。そこがなんだかホッとしたんですよね」

それじゃあ、休憩終わり! と言って先にスタートした上宮さんは、とても軽やかに走る。彼女が下って行く伸びやかな尾根のはるか先。靄に光を受け、美しく輝くのは瀬戸内の海だ。この播磨アルプスには最近は多くのトレイルランナーたちが集まってくる。様々な登山口からアクセスすることができるので、自分の力量や時間に合わせてルートをチョイスできるということもあるけど、美しいこの景色が最大の理由だろう。
走り始めて3時間ほどで高御位山の山頂に着く。標高は304m。日帰りハイキングに来た人たちがのんびりと休憩しているすぐ脇の崖を見下ろすと、クライマーの姿もある。

「いろんな人が、それぞれの楽しみ方をしているこの感じがとても素敵だなと感じます。トレイルランを始めた頃は上位に入ることが嬉しかったですけど、最近のモチベーションはそこだけじゃなくなった感じがあります。自然の中にいる、そこにいる、ということがただただ良いなと思うようになってきて。私の場合は自然との親しみ方が走ることだったというだけで、歩くのが好きな人もいるでしょうし、絵を描く人もいる。ただそれだけの違いだと思います」
上宮さんは、とても楽しそうに走る。

そんな彼女を見ていたら、なぜ走るの? という質問が思わず口から出てしまった。さっきまで、あんなに楽しそうに走っていた彼女がちょっと困った顔をする。

「ただ単純に気持ち良いからなんですけど、そういう答えじゃ記事にしにくいですよね。明確な目標とか目的とか言えたほうがカッコいいですよね。うーーーん」

30秒ほど彼女が考えたあと、もう大丈夫ですから、と声をかけた。

無理に理由を見つける必要なんてない。彼女は楽しいから、子供のように野山を駆け巡るのだ。ただ、それだけのことなのだ。

「ここを下れば風呂が待ってますよ! 走った後のお風呂最高!」

どうやら、理由のひとつは確定しているらしい。
今回のルート 播磨アルプス
私がルーファスを使う理由
好みの問題もあると思いますけど、私はベストよりもバックパック型が好きなんです。だからレースの時もプライベートで走るときもずっとルーファス。

イベントなんかだと、エマージェンシーを多めに持って行ったりするので、12L。レースの時は6Lを使っています。
私はボトルが後ろにあるほうが好きなので、この斜めに付いているのは、すごく取り出しやすくて気に入っています。2つ付いているので、片方にボトルで片方にウィンドシェルを入れたりしますね。ゴミはここ、ジェルはここ、みたいに自分の中で各ポケットに役割をつけると、とても使いやすいですよ。

今年のモンブランにも、もちろんルーファスで行きます!
Text:TAKASHI SAKURAI Photograph:MASAOMI MATSUDA