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背負ったまま走り続けるために生まれたパック
石川弘樹 こだわりを詰め込んで

 

2023.05.19

ここ日本でもすっかりアクティビティとして定着した感のあるトレイルランニング。2000年代初頭、「山岳マラソン」ではなく「トレイルランニング」という呼び名で、この山での新しい遊び方を広めたパイオニアが石川弘樹さんだ。

石川さんが広めたのは、単にヨコモジの呼称だけでなく、アウトドアアクティビティとしてのスタイルやカルチャーだった。その一つに、石川さんのシグネチャーモデルであるトレイルランニング専用バックパック、ルーファスがある。

約15年前、登山用のバックパックを得意としていたグレゴリーが、石川さんの「肩から下ろすことなく、背負ったまま走り続けたい」というリクエストを受け、本腰を入れて開発したトレイルランニングのためのパックだ。

「今リリースされているのは、数年前にフルモデルチェンジされたモデルがベース。揺れを抑えるためにメイン荷室が上重心の設計となっているのがポイントです。そこから何度かのマイナーチェンジを経たバージョンにアップデートされていますが、背負ったまま走り続けたいというメインコンセプトはファーストモデルからずっと変わらずです。開発当初にまずリクエストしたのが、背面ボトム部にあるポケットでした」
アウターやウォーターボトルの類を、背負ったまま後ろ手で出し入れできるツインポケットの存在は、ルーファスの大きな特徴であり、個性。

当時展開されていたエンデュランススポーツ向けパックの背面に自ら布地を縫い付け、ポケットのようなものをこしらえたプロトタイプを製作し、米国本社の開発担当者に渡して直談判したのだそう。

「僕が縫い付けたポケットは1つだったのですが、上がってきたサンプルでは現行と同じツインポケットになっていました。その方がバランスがいいのだと。なおかつ大きなループが付属しているので、後ろ手で引っ張りやすく、アクセスしやすいんですね」
巷のトレイルランニング向けパックでは左右のショルダーハーネスにソフトフラスクを挿すパターンが主流だが、「それだと腕振りのジャマになるような気がして」と、このスタイルは現在まで継承されている。
ポケットの配置に至るまで、自身のニーズをリクエストした
背負ったまま走り続けるためのポイントその2は、背負ったままでフィッティングを調整できること。そのためのサイドコンプレッションベルトが忍ばされており、走ったまま容易に締めたり、リリースしたりできる作りになっている。
ショルダーハーネス部分の収納は、左胸側にウォーターボトルやエナジージェル用のスモールフラスクが収まる仕様で、その下にはグローブやヘッドライトなど頻繁に出し入れしたい小物の収納に便利なエクストラポケットが。左胸側は紙の地図やスマートフォンがカッチリ収まるサイズのジッパーポケットや、サプリメント類を収納するための耐水ベルクロポケットが備わる。
なお、このショルダーハーネスのベースにはストレッチしない素材が使われている。その方が激しいランニングの動作をした際でも、いたずらに伸びることなく安定するから。細部に至るまで“石川弘樹流”の使い勝手が追求されているのだ。
「最新バージョンでは、ショルダーハーネスにトレイルラン用ポールを括り付けるためのバンジーコードが片側に2箇所、計4箇所プラスされました。それぞれ使わないときはワンタッチで取り外すこともできます。また、ショルダーハーネスをつなぐチェストストラップがより細くなり、その分軽量化されています」

トレッキングポールを使わないときはアタッチメントが取り外し可能。

容量は8ℓ、12ℓの2サイズを展開。丹沢・秦野のホームマウンテンでのトレイルランニングや、タイムを狙いたいレースではルーファス8を、初めて訪れるような山域では「装備を余分に持って行きたいから」ルーファス12をと、遊び方に応じて使い分けている。
低山としての丹沢の魅力
このエリアに拠点を移してから、石川さんはもう何度も春を迎えている。何を隠そうトレイルランニングを始めたてのころ、初めて自分一人で走りに来た山が丹沢の秦野エリアだった。

「地図とにらめっこしてはまだ走ったことのない道を走り、ときにはJリーガーの友人を『オフトレしようぜ』と誘って、駆け巡っていましたっけ」
やがてプロトレイルランナーとなり、慣れ親しんだ土地勘のあるこのエリアに移住したのは、弘法山とその周辺のトレイルが決め手の一つ。

弘法山は秦野を代表する標高235 mの低山で、鉄道駅からのアクセスもよく、地域住民にとっては憩いの里山だ。周囲にはいくつかのピークがあり、ところどころ開けているので秦野の街を一望できる。

「鶴巻温泉から弘法山まで、ロングトレイルというわけではないですけど、ちょっとした縦走ができるんですよ。街へ下りる枝道も沢山ありますから、安全に、迷うことなくトレイルランニングを楽しめます」
「標高を上げず、横に横にと、走り続けられるトレイルで。東京近郊は植林によるスギ林も多いのですが、この辺りはそういった雰囲気ではなく、春であればサクラの開花や、新緑の萌芽に出会えるんですよね」と、ホームマウンテンの魅力を語ってくれた。

トレイルの幅も広く、日光が射しこむ明るいトレイルは、トレイルランニングのフィールドとしてもとても走りやすい。

チャレンジングなトレイルランをしたければ、ここから奥へと分け入って、丹沢の主稜線である塔ノ岳方面や、西丹沢、北丹沢といった本格的な山岳トレイルもひと連なりでアクセスできる。
リハビリのトレイルランにも丁度いい
とはいえ、石川さん自身は昨年に人工股関節を埋め込む手術を経験して、今はリハビリの真っ最中。日常生活では数年振りに痛みから解放され、ようやくトレイルに足を踏み入れられるようになってきたところ。

「いつかは丹沢で走りたいと思っている100kmのルートがあるんです」とイタズラ坊主のような企み顔の笑みを見せてくれたが、丹沢の山々を本格的に駆け回るのはもう少しだけ先の話。

以前なら使うことすら頭になかったトレイルラン用ポールのアタッチメントをルーファスに追加したのも、より股関節に負担のかからないトレイルランニングを試行錯誤しているからだ。
「自宅からすぐアクセスできて、なおかつ走りやすいこのエリアはリハビリに最適。だからしばらくはこのフィールドに足繁く通うことになるでしょう。故障中には出来なかったことが山ほどあるので、弘法山エリアで人工股関節であっても山を走ることのできるトレイルランナーとしての手応えを掴んで、まずは全国各地のショートレースや魅力あるトレイルをゆっくり、のんびりと巡ってみたいですね」

そのときの相棒はもちろん、こだわりを詰めに詰め込んだルーファスだ。
Text: SHINSUKE ISOMURA Photo: HAO MODA